研究概要 |
根の成長における活性酸素(ROS)による情報統御を目指し、根端での細胞周期遺伝子群への発現影響を分子遺伝学的な解析を進めた。ROSの一種である過酸化水素によってシロイヌナズナの根の成長は顕著に阻害を受ける。そこで過酸化水素が細胞周期のS期もしくはM期どちらの遺伝子発現制御に大きく影響を与えるかを解析した。過酸化水素処理により根端メリステムサイズが小さくなることからM期進行が抑制されていると推測された。実際にM期マーカーであるCyclinB1;1マーカーラインの発現は過酸化水素処理によって顕著に抑制されていた。さらにDAPIにより核を染色し、M期中期、後期の根端における細胞数を数えたところ、過酸化水素処理ではM期中期、後期の細胞数も減少していた。また、S期進行の指標となるDNAの複製イベントを可視化する為にBrdUによる染色実験を行ったところ、過酸化水素処理によりBrdU染色レベルも減少していることが分かった。以上の結果から、過酸化水素は根端においてS期、M期両イベントの進行を抑制していることが強く示唆された。これらの結果を受け、S期、M期チェックポイントに重要な機能を持つ遺伝子群の発現をq-PCR法により定量した。その結果、染色実験と同様に過酸化水素はそれら遺伝子発現を抑制していることがわかった。特にS期進行に重要な役割を果たす転写因子E2Faの発現は顕著に抑制されていた。細胞内のROSレベルを変化させる為にペルオキシダーゼ過剰発現株とカタラーゼ遺伝子破壊株を用い同様の実験を行ったところ、E2Faの発現はペルオキシダーゼ過剰発現株では野生型株より高かった。以上のことから細胞内ROSレベルは細胞周期関連遺伝子群の発現に影響を与えることにより根端メリステムサイズを調節していることを明らかにし、論文として発表した(Tsukagoshi, Plant Sci. 2012)
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