本研究は、RNAのシナプスへ局在するメカニズムおよびシナプスでの翻訳制御の分子メカニズムの解明を目的としている。23年度は、アメフラシから採取した感覚神経、運動神経細胞を用いて人工神経ネットワークを構築し、生きた細胞で翻訳蛍光レポーターを用いたRNA局在メカニズムや、翻訳制御の解析を行った。さらに、遺伝子発現の空間的制御をリアルタイムで解析する可視化研究手法を開発した。 その成果の一つに、mRNAがシナプスに局在するための「アドレス」エレメントを同定した。アメフラシの感覚-運動神経をつなぐシナプスに局在する神経伝達物質ペプチド遺伝子sensorinをモデル分子とし、翻訳コドンのすぐ上流に存在する66ntの局在エレメントの存在を見出した。このエレメントを本来局在しないmRNAに連結させると、連結した遺伝子もシナプスに局在するようになった。さらに、変異導入で解析することによって、エレメントの2次構造が何らかの分子に認識され、sensorinのシナプス局在を促進するであろうメカニズム的な示唆が得られた。2次構造の同定については、in silico predictionで得られた2次構造を候補にあげ、生化学的な手法で構造を裏付けするアプローチが有用であることがわかった。 もう一つの成果は、RNAライブイメージングの基盤ツールとなるエキシトン蛍光プローブを用いて、無洗浄RNA in situ検出法を開発した。従来のFluorescence In Situ Hybridizationよりも簡便にRNA検出ができた。これらの結果は1RNAの空間制御メカニズムの解明に手掛りを与え、さらなる発展に繋がる研究ツールとして期待できる。
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