研究課題/領域番号 |
23870023
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
村田 知慧 徳島大学, 大学院・ヘルスバイオサイエンス研究部, 助教 (00614132)
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キーワード | Y染色体 / 進化 / neo-Y / 偽常染色体領域 / 性染色体 / 転座 |
研究概要 |
トゲネズミ属で唯一Y染色体をもつオキナワトゲネズミは、一対の常染色体転座に伴い新たな性染色体領域(neo-X、neo-Y)を獲得しており、常染色体転座がY染色体の存続に機能したことが示唆される。また、真獣類の祖先において性染色体に転座した常染色体領域は、ヒトではその一部が偽常染色体領域(PAR)として機能している。本研究では、進化の初期段階にあるneo-Xとneo-Yを有する種を対象に、その分化過程とPARとしての機能性との関連を明らかにすることで、性染色体への一対の常染色体の転座のY染色体進化における意義を解明することを目的として研究を推進し、以下の結果を得た。なお計画では、オキナワトゲネズミと同様にneo-X、neo-Yをもつコビトハツカネズミを研究対象としていたが、材料の入手が本年度困難であることが判明し、オキナワトゲネズミを用いて研究を行った。 1)オキナワトゲネズミのneo-Xとneo-Y間で遺伝子の配置順は一致し、大きな構造変化はみられなかった(Murata et al., 2012)。 2)neo-X、neo-Y連鎖遺伝子を対象に、マウスとラットの配列相同性を利用してPCRおよびシーケンス解析を行った結果、2遺伝子のイントロン領域においてneo-X、neo-Y間の配列分化が確認された。 (1)性分化関連遺伝子SOX8は、解析した全てのオス(n=9)ではヘテロ接合体タイプ(C/A)であり、全てのメス(n=4)ではホモ接合体タイプ(A/A)であるオス特異的なSNPサイトが検出された。 (2)祖先Y領域の近位に予測上存在する遺伝子LKAPは、オス特異的な2つのSNPサイトと1つの配列挿入サイトが確認された。 これらの結果は、大きな構造変化がみられず、進化の初期段階にあると考えられたオキナワトゲネズミのneo-Xとneo-Y間において、組換え抑制に伴う配列分化が生じていることを示唆しており、哺乳類における性染色体-常染色体転座の進化的意義の解明に、構造および機能的に有用な情報を付与するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた研究対象であるコビトハツカネズミは、今年度の研究開始時点で材料入手が困難であることがわかった。しかし、同様に研究に適した材料であるオキナワトゲネズミの入手が可能となり、計画のほとんどを変更することなく、速やかに材料を変えて研究を遂行でき、予測以上の成果を得られている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度、コビトハツカネズミは、2つの飼育機関(埼玉こども動物園および宮崎大学)において繁殖個体数が増え次第、提供してもらえるように研究調整済みである。オキナワトゲネズミは国の天然記念物であり、精巣の減数分裂像の観察によって、組換え抑制領域もしくは偽常染色体領域(PAR)のように機能する高頻度組換え領域を同定する実験を行うことができない。一方で、組換え抑制領域の同定については、今年度の解析によって同定したSOX8やKAP領域を中心にneo-X、neo-Y由来のBACクローンの単離、配列決定により対応できることから、当初の研究計画の軽微な変更のみで研究を効率よく推進できる。高頻度組換え領域の同定については、組換え頻度とGC含量に正の相関があることを利用し、neo-X/neo-Yにおける高GC含量の領域の検出によって明らかにすることで対応する。
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