哺乳類のXとY染色体はもともと一対の相同な染色体であったが、進化の過程で生じた組換え抑制によって遺伝子数や組成の異なる染色体に分化し、現在ではごく小さな相同領域(偽常染色体領域: PAR)においてのみ組換えを起こす。addition-attrition仮説により、PARは、性染色体に常染色体領域が付加されることで拡大し、Y染色体PARが欠失することで縮小する過程を繰り返し進化したと考えられている。しかし、性染色体に転座した常染色体領域の進化過程を実証的に示し、この仮説を検証した研究はない。そこで本研究では性染色体に転座した常染色体領域の進化過程を解明することを目的として、性染色体に新たに一対の常染色体(neo-X、neo-Y)が転座したオキナワトゲネズミを用いて研究を推進し、以下の結果を得た。 1.動原体近位に位置するMARF1およびSOX8においてオス特異的なSNPが検出されneo-X、neo-Y間で遺伝的分化が示された一方で、動原体遠位に位置するCBX2ではneo-Xとneo-Y間に遺伝的分化は検出されなかった。 2.MARF1のコーディング領域だけでなく遺伝子領域を含む83 kbのゲノム領域においても、neo-Xに比べてneo-Yで塩基置換率が有意に増加していた。SOX8遺伝子領域ではneo-Xとneo-Y間で変異率に有意差はみられなかった。 3.祖先Y領域に存在する性決定遺伝子SRYのゲノム配列を同定し、オリジナルのSRY配列が機能ドメイン内におけるフレームシフトにより偽遺伝子化していることを明らかにした。 以上の結果は、性染色体への常染色体転座がneo-X、neo-Y連鎖遺伝子群間の分化および新たな性決定遺伝子の獲得に関与することを示唆しており、哺乳類のY染色体と性決定機構の進化における性染色体―常染色体転座の進化的意義の解明に重要な情報を付与するものである。
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