研究課題
生物の社会性はどのように進化し維持されてきたのであろうか?これまで多くの研究者がこの疑問に挑んできた。陸上生態系では、アリを始めとしてハチやシロアリそしてアブラムシなど多彩な社会性生物が知られている。しかしながら、水圏生態系では非常に限られた例しか報告されていない。本研究では、潮間帯に生息する巻貝に寄生して集団生活を送る二生吸虫に着目し、水圏生物の社会性研究の新たなモデルシステムを構築することを目的とした。二生吸虫は、水圏生態系の中で比較的大きなバイオマスを持ち、さらに地理的に広く分布する生物である。その二生吸虫が社会性を持っているという衝撃的な研究が、昨年度にアメリカ西海岸より報告された。しかし現時点では、アメリカ西海岸以外の地域に生息する二生吸虫の社会性の有無はまだ明らかにされていない。もしも地球の裏側にある日本の二生吸虫においても社会性が確認できれば、二生吸虫の社会性の地理的な広がりを証明することができる。そこで私は、日本の干潟に生息するホソウミニナに寄生している二生吸虫の形態や行動様式を調査し、社会性の有無を検討した。まず始めに、二生吸虫の形態を観察・測定することにより、二生吸虫の集団に形態の異なる2つのタイプがあることを明らかにした。さらに、これらのタイプの行動パターンを詳細に調べることで、それぞれのタイプが「生産」と「防衛」という役割を担っていることを確認した。これらの結果は、日本の二生吸虫もアメリカ西海岸の二生吸虫と同様に社会性を持っていることを示している。アメリカ大陸から太平洋を隔てた日本でも同様の社会性が見つかったことは、二生吸虫の社会性が地理的に広がりのある現象であることを示している。
2: おおむね順調に進展している
平成23年度は、ホソウミニナに寄生している二生吸虫の役割分担を確認することを目標とした。生態観察や実験を通して、二生吸虫が生産や防衛という役割分担をしていることを確認できた。研究は当初の予定通り順調に進んでいる。
平成24年度の研究目標は、二生吸虫が社会性を獲得した進化学的背景を明らかにすることである。平成23年度の研究は比較的順調に進めることができ、予想通りの結果を得ることができた。そのため、研究計画の大幅な変更は現時点では考えていない。平成24年度は、生態実験と分子遺伝学的な実験を組み合わせて社会性がどのように進化し、そして維持されてきたのか、そのメカニズムを明らかにしたい。
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