生物の社会性はどのように進化し維持されてきたのであろうか?これはダーウィンの時代から議論されてきた生物学の大きな課題である。本研究の目的は、2011年に報告された二生吸虫の社会性の仕組みをより深く理解することで社会性研究の新たなモデルシステムを構築することである。陸上生態系では、社会性昆虫を中心として多彩な社会性生物が知られている。しかしながら、水圏生態系では非常に限られた例しか報告されていない。そんな中、潮間帯の巻貝に寄生する二生吸虫が社会性を持っているという研究結果がアメリカから報告された。しかし二生吸虫の社会性の地理的な広がりはまだ明らかになっていない。もしもアメリカから見てほぼ地球の裏側に位置する日本の二生吸虫において社会性が確認できれば、二生吸虫の社会性の地理的な広がりを確認することができる。そこで私は、日本の干潟に生息するホソウミニナに寄生している二生吸虫の形態や行動様式を調査し、社会性の有無を検討した。平成23年度には、二生吸虫を観察・測定することにより、3種の二生吸虫のコロニー内に形態と行動パターンの異なる「繁殖型」と「兵隊型」2つのタイプの個体がいることを明らかにした。本年度は、特に行動実験を重点的に行い、二生吸虫の兵隊がどの程度まで、敵と味方を区別することができるのかを検討した。実験の結果、二生吸虫の兵隊は、同じコロニーの仲間と別種の二生吸虫を見分けることが確認できた。しかし、これらの3種の二生吸虫は、同種内のコロニーの違いを見分けることはできなかった。この結果は、アメリカの二生吸虫の観察結果とは一致しない。このことは、二生吸虫の社会性には、色々な形態があることを示唆している。本研究により、二生吸虫の社会性の地理的広がりと、社会性形態の多様性が示された。これらの結果は、二生吸虫が社会性研究のモデル生物と成り得ることを強く示唆している。
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