研究概要 |
細胞の極性形成は、生物の形態形成を支える重要な生命現象である。植物細胞では現在までに、PINと呼ばれるオーキシン排出担体が、小胞輸送制御因子であるGNOM依存的に細胞において偏在化し、オーキシン極性輸送を制御することで、植物細胞の極性、ひいては、個体の軸性が形成されることが知られている。このオーキシンの極性輸送は、葉脈、根、胚等の様々な植物個体の発生現象を制御する重要因子であることから、PINの偏在化機構の解明は、植物生理学上、重要な課題となっている。 本年度は上記の分子機構の解明を目的に、まず、細胞生物学的解析として、GNOM及びPINの局在に関して解析を行った。また、葉脈パターンが異常となるvan変異体の解析を通して、PINの偏在化機構の解明を目指した。以下に本年度の研究成果を記す。 1.当研究室において開発された、高解像共焦点レーザー顕微鏡を用いて、PINの細胞膜上での局在を観察したところ、その局在様式は、これまで知られていたものとは異なり、細胞膜上でドット状の不均一な構造をなしながら偏在化することが明らかになった。また、3D構築を行うことで、PINのドット状構造は、繊維状に並ぶことが明らかになった。なお、興味深いことに、PINは表層微小管とは、排他的かつ並行に並んで局在することが明らかになった。一方,GNOMに関しても同様の解析を行ったところ,GNOMは,そのホモログであるGNL1と隣接しながらも,一つのゴルジ体上で,異なる区画に局在することが明らかになった.また,GNOM,GNL1はゴルジ体のシス槽に多く局在することも明らかになった. 2.これまでにvan2,5,6変異体の原因遺伝子は未同定であった。そこで、これらの変異体について、次世代シーケンス解析を行った。現在、配列を解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の目的として挙げた,4つの研究計画のうち,3つに関しては,当初の予定どおり進んでおり,上記に示す結果を得ている.残り1つの事項の,"PINタンパク質の輸送経路の同定"に関しても,それらの前段階として,PINの細胞膜における詳細な局在様式を現在解析しており,既にいくつかの興味深い知見を得ている.以上のことから,研究目的として掲げた項目の大部分を達成できており,おおむね順調に進展していると判断している.
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今後の研究の推進方策 |
GNOMの免疫電子顕微鏡観察を行うために,まず,抗体価の高い抗体の選別を行う.これまでに4つのGNOM抗体を作成しており,ウエスタンブロット,蛍光抗体染色を行うことで,反応性の良い抗体候補を選抜する.また,万が一,抗体の反応価が不十分であった場合には,硫安沈殿を行い,抗体の濃縮を行う. 一方,van2,5,6変異体の原因遺伝子の同定に関しては,現在行っている,次世代シーケンサーの解析結果を得た後に,いくつかの候補遺伝子について,逐次,相補性検定を行うことで,原因遺伝子の同定を目指す.原因遺伝子候補が多岐にわたる場合には,マッピングも併せて行い,原因遺伝子候補を狭める.
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