本研究により、円口類ヤツメウナギの鼻下垂体プラコード(以下NHP)は、形態学的、組織学的には単一の肥厚として発生するにもかかわらず、顎口類の鼻プラコード、下垂体プラコードに相当する遺伝子発現が、プラコード肥厚前よりそれぞれ前後に分かれて観察されることが分かった。このことから、NHPは組織学的には単一のプラコードであるものの、分子発生学的には異なる性質を発生初期から持つ可能性が示唆される。遺伝子機能阻害実験については、FGFシグナル阻害剤およびモルフォリノを使用した。現在表現型を解析中であるが、下垂体プラコードマーカーの発現が抑制されたことから、少なくとも下垂体プラコード誘導機構については、顎口類とヤツメウナギは共通の発生メカニズムを使用しる可能性が高い。 また、NHPの予定運命について、ヤツメウナギ初期神経胚の前プラコード領域(PPR)に蛍光色素DiIをインジェクションし、どの領域の細胞がNHPを形成するのか解析した。この結果、NHPの鼻プラコード領域、および下垂体プラコード領域は、ともにPPRの前方から由来することが分かったが、両者の詳細な位置関係は不明瞭であったので、今後の追試が必要である。また、ライブイメージングに向けて、蛍光タンパク質を受精卵に注入し、蛍光が胚で観察できることを確認し、今後の解析への土台ができた。ヌタウナギについては、8月に成体の入手に成功し、多数の産卵も観察された。現在胚発生中であり、今後はこの胚を用いて鼻下垂体プラコードの分子発生を解析する予定である。
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