ホネクイハナムシ類は,死して海底に沈降した鯨類等の大型脊椎動物の遺骸にのみ生息する無脊椎動物である.ハオリムシ類に近縁な多毛類であるが,多毛類に顕著な形態的特徴である体節を有しておらず,また口や肛門,消化管等の消化器系も欠いている.体の後端には“根”と呼ばれるホネクイハナムシ類に特異的な器官を有しており,その根から分泌する酵素等で骨を分解し,根を張ると同時に骨から栄養を得ていると考えられている.また根にはその機能が未解明な細胞内共生細菌が存在している.このホネクイハナムシ類のみが有する根の機能を解明することは,生物の特殊な環境への進出や新奇性の進化を議論する上で非常に重要なことである.しかし,ホネクイハナムシ類は深海の極限環境に生息しているために,飼育方法が確立しておらず,またその生活史も不明である. 本研究では,2012年の春に鹿児島県野間岬沖水深230mからホネクイハナムシ Osedax japonicus を採集し,実験室内での飼育系を確立した.また豚骨などの脊椎動物の骨に幼生を人工的に着底させる方法を確立し,初めて全発生過程を解明した.その結果,根は着底直後に形成され始め,着底1日後には基質である骨を消化し始めることが明らかとなった.また共生細菌は幼生が骨へと着底するタイミングで感染することを明らかとした.また様々な組織や発生段階において,RNAシーケンスを行なった.その結果,組織や発生段階特異的に発現している遺伝子を明らかとした.
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