研究概要 |
養豚産業におけるマイコプラズマ性肺炎(MPS)などの呼吸器病による経済的損失は甚大である.本研究は遺伝育種学的手法により造成されたMPS抗病性豚の詳細な免疫調節機構を解明し,抗病性の原因を明らかにすることを目的としている. 本年度はMPS抗病性豚と対照豚のMPSワクチンに対する免疫応答についての比較を行った.MPSワクチン接種前後の血液を採取し(day-14, -7, 0, 2, 7, 14),総白血球数,免疫担当細胞割合(B,T,ミエロイド細胞等),サイトカイン発現量,サイトカイン産生量の継時的な解析を行った.さらに,末梢血単核球(PBMC)を分離し,リンパ球幼若化反応試験を行った.白血球数は-7、0日でMPS抗病性選抜豚において有意に少なかった.血中細胞種割合は, ワクチン接種後対照豚においてはB細胞(CD21+)が有意に増加し,ミエロイド細胞(SWC3a+)は減少した.一方、MPS抗病性選抜豚はミエロイド細胞が有意に増加した.また,細胞増殖活性試験によりワクチン接種後のMPS抗病性選抜豚の増殖活性が対照豚に比べ有意に低いことが明らかとなった.サイトカイン産生量に関してはIFNgに系統間の差が認められ,MPS抗病性選抜豚におけるIFNg産生量が高いことが明らかとなった.しかし、血中細胞における微生物成分を認識する受容体(TLR)の発現量には系統間の差は認められなかった.これらのことから,初期応答に重要な抗原認識受容体には変化がない一方、マイコプラズマ抗病性選抜豚は自然免疫を活性化することにより抗病性を獲得している可能性が示唆された.これらの基礎情報は,抗病性育種における新たな指標を提示するなど,疾病に対する抵抗性に優れ,安全・安心に配慮した純粋種の育種改良へ向けた発展的応用が強く期待される.
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