研究課題/領域番号 |
23880008
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
亀井 宏泰 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 特任研究院 (00610362)
|
キーワード | 初期胚 / PI3K / ゼブラフィッシュ / 胚性幹細胞 / PI3K結合分子 |
研究概要 |
本年度はゼブラフィッシュ初期胚においてホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)活性がどのように制御され、どのような分子がその活性制御に関与するか調べた。まず、ゼブラフィッシュの胚発生において時期特異的PI3K活性の阻害を行い、Pl3K活性が初期胚の生残にとって必要となる発生段階を検討した。即ち、ゼブラフィッシュ初期胚を特異的なPI3K阻害剤LY2094002(25uM)で6時間処理し胚の生存率を調べた。その結果、受精直後の胚はLY294002処理によりほぼ全ての胚が死滅するが、胚性の遺伝子発現が活発化している様な発生の進んだ胚においては(発生遅滞は起こすものの)9割以上の胚が同様の処理においても生残していた。このことから発生のごく初期(特に胚性遺伝子発現が開始される以前のステージ:卵割期-胞胚期中期)には特にPI3K活性が胚の生存に重要な役割を担うと考えられた。また既知のPI3K結合分子群(インスリン受容体基質1~4やPI3KAP)のゼブラフィッシュホモログのアミノ酸配列部分をコードするcDNAを単離した。この配列情報をもとに逆転写PCR法により初期胚の細胞中に含まれるこれらの分子のmRNA量の解析を行ったところ、それぞれの発生段階に特徴的な量変化を示すものがあることが分かった。現在これらのタンパク質の量変化やその機能に関して更なる解析を行っている。さらに、核酸の量変動からでは捉えることができない初期胚特異的なPI3Kの活性制御因子を探索する目的で、哺乳類のPI3K分子の特異抗体とゼブラフィッシュ初期胚の細胞破砕液を用いた免疫共沈降を行った。このようにして得られた免疫沈降物を高感度質量分析に供しゼブラフィッシュ初期胚におけるPI3K結合分子の同定を試みた。これまでのところ、過剰な卵黄成分や哺乳類抗体を用いた実験であると云う理由から特異的な分子を同定するまでには至っていないが、これらの問題を解決する為、ゼブラフィッシュのPI3K分子を抗原にした特異抗体を作成すること、そして卵黄成分を含まない哺乳類の未分化幹細胞(ES細胞)の培養系を用いて同様の実験を行う為の準備を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予定していたゼブラフィッシュ初期胚におけるPI3K結合因子のタンパク質の解析が計画どおりに進行しておらず、解析対象となる具体的な分子の同定が完了していない。バックアッププランや実験系をより改善する為の準備も進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
今後はゼブラフィッシュのPI3K分子を抗原にした特異抗体を作成しホモロガスな実験系を行うことにより、初期胚、におけるPI3K結合分子の特定を引き続き行っていく。また、ゼブラフィッシュ初期胚を用いた分子の同定が成功しなかった場合のバックアッププランとして、哺乳類の未分化幹細胞(マウス胚性幹細胞)の培養系を用いて同様の実験を行うことも計画しており、それに関する実験系の準備はほぼ完了した。ゼブラフィッシュ初期胚と胚性幹細胞の培養系を用いた実験を同時並行的に行っていくことで本研究計画の基幹とも云える初期胚特異的なPI3Kの機能調節分子の同定を目指す。これらの解析により標的分子が特定でき次第、その生化学的特性やゼブラフィッシュ初期胚を用いた分子機能解析系においてこれらの分子機能の詳細も解析する予定である。
|