本研究では、初期胚の品質と class-I PI3K 活性がどのように連動し、どのような分子がそこに関与するか調べる為、主にゼブラフィッシュ胚を用いた解析を行った。まずゼブラフィッシュ初期胚における class-I PI3K の時期特異的活性化を調べたところ、 class-I PI3K の下流にある細胞内シグナル伝達経路の活性化は胚発生が体節形成期に入る頃から顕著になるがそれ以前の発生段階においては微弱な活性化しか認められないことが分かった。また、p110 class-I PI3K 触媒サブユニットの各サブタイプ(αおよびβ)の特異的阻害剤で発生中の胚を処理した所、胞胚期中期以前にpan-PI3K および p110βの阻害剤を用いた場合においてのみ胚の生存率の顕著な低下が認められた。その為、胚発生のごく初期においてはp110βの活性化が重要であることが示唆された。続いて、免疫共沈降法と高感度質量分析法等を組み合わせた生化学的方法により、ゼブラフィッシュ p110β結合分子の探索を試みた。しかし、入手可能な市販の p110βの抗体はゼブラフィッシュ p110βを効率的に免疫沈降できなかった為、ウサギを用いてゼブラフィッシュ p110βを特異的に認識可能なポリクローナル抗体を作製した。現在、これを用いて再度実験を行っている。また、当初の研究計画には無かったが、初期胚の培養細胞系のモデルとしてマウスES細胞を用いた実験系を導入し、上記と同様の解析を行った。その結果、数種類の新たなp110β結合分子群を見出し、うち少なくとも二つは初期胚特異的にp110βと複合体を形成していることが明らかとなった。現在、これらがp110βの酵素活性にどのような影響を持つのか、また、その複合体が胚の品質管理にどのような意味を持つのか詳しく解析中である。
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