研究課題
哺乳動物の繁殖周期は視床下部からの指令によって制御されており、神経ペプチド・キスペプチンが最も上位の調節因子と考えられている。キスペプチンおよびその関連ペプチドは家畜の繁殖障害の予防や治療への応用が期待されるが、そのために必要な細胞レベルでの解析は十分に行われていない。本研究では、ウシの良好なモデル動物であるシバヤギを用い、キスペプチンニューロンおよびGnRHニューロンに由来する神経細胞株を作製し、この細胞株を用いてキスペプチン発現制御機構の解明および家畜繁殖制御の新規治療法開発を目指す。平成23年度は、ヤギ視床下部細胞の分離と不死化を実施した。3週齢シバヤギより脳を取り出し、視床下部の視索前野と弓状核からそれぞれ細胞を分離、培養した。癌原遺伝子であるシミアンウイルス40(SV40)large T抗原遺伝子をレンチウイルスベクターを用いて導入し、これらの細胞を不死化した。不死化後、良好に増殖するようになった細胞群を得られたため、これらのクローニングを行った。細胞が一個ずつになるよう分離し、それぞれを細胞クローンとした。視索前野と弓状核から計60個の細胞クローンを得ることに成功した。神経細胞由来の細胞クローンを選別するため、各細胞クローンよりmRNAを抽出し、神経細胞マーカー遺伝子・NSEの発現解析を開始した。同時に、キスペプチン遺伝子上流域のクローニングを実施した。ヤギのキスペプチン遺伝子5'上流域配列についてはこれまで報告がなく、またヤギの全ゲノム配列は未だ明らかでないため、ゲノムウォーキング法により上流域配列取得を試みた。その結果、キスペプチン遺伝子の翻訳開始点から約3kbの上流域配列を得ることができた。この遺伝子上流域は、キスペプチンの転写制御機構解析に使用していく。
2: おおむね順調に進展している
平成23年度の研究実施目標の柱であった、ヤギ視床下部由来の不死化細胞を得ることに成功した。希望するキスペプチンあるいはGnRHニューロン細胞株の特定までは至っていないものの、多くのクローン細胞株を取得し、発現遺伝子マーカーの解析まで到達することができた。さらに、ヤギキスペプチン遺伝子上流域の取得にも成功し、細胞レベルでキスペプチン転写制御機構を解析するための基盤を得ることができた。
神経細胞マーカーのmRNA発現を解析し、得られたヤギ視床下部不死化細胞の各クローンの由来を調べる。神経細胞由来であることが特定された細胞株について、キスペプチン、GnRH、ニューロキニンB、ダイノルフィン、エストロゲン受容体等のmRNA発現およびタンパク質発現を測定し、視索前野キスペプチンニューロン、弓状核キスペプチンニューロン、GnRHニューロンの各細胞株を特定する。得られた細胞株を用い、キスペプチンの転写制御機構の解明、キスペプチンの産生を調節する因子の探索、キスペプチンagonist/antagonistおよびキスペプチン産生促進/抑制因子の評価等を実施し、キスペプチンニューロンとGnRHニューロンの働きを細胞レベルで解明していく。
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