リポファジーとはオートファジーにより細胞内の脂肪滴及び脂質が分解される現象のことを表す。2009年に見出されて以来、本現象を制御する天然由来化合物の探索は全くなされていない。本研究課題は、北アフリカ産植物Thymelaea hirsutaの抽出物にリポファジーを制御する可能性を有することに着目し、本職物抽出物から活性化合物を単離・同定し、標的分子及び作用機構を明らかにすることを目的とするものである。前年度ではT. hirsutaからのオートファジー制御化合物の単離を試みたが、抽出物及び分離画分にオートファジー制御活性が認められなかった。そこで、天然物を含む種々の化合物を用いたスクリーニングを行ったところ、イソキノリンアルカロイドであるテトランドリンにオートファジー制御活性を有することを見出した。本年度はテトランドリンの構造活性相関及び作用機構の解析を行った。天然に含まれる種々の類縁化合物を用いて活性比較を行った結果、12位のメトキシ基及び1位の立体が重要であることが明らかになった。次に磁気ビーズを用いた標的分子の解明を試みたが、ビーズ固定化に利用可能な官能基が得られなかったことから断念し、生化学的なアプローチにより作用機構の解析を行った。オートファゴソームのマーカーであるLC3タンパク質にEGFPを融合させたタンパク質を発現する肝星細胞株を用いて、LC3及び脂肪滴の局在を蛍光観察した結果、テトランドリン処理によりLC3の増加及び脂肪滴との共局在が観察された。また、テトランドリンを処理した肝星細胞において、膜結合型であるLC3-IIへの変換が、経時的、濃度依存的に増加することが分かった。さらにリソソーム阻害剤の共処理実験から、本化合物がオートファジーを誘導している可能性が示唆された。また、オートファゴソームの形成に必須なAtg7の発現増加が関与していることが明らかになった。
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