本プロジェクトでは、活性酸素種(ROS)を介した植物のストレス応答機構の解明および有用作物の分子育種への応用を目指し、ROS応答性の新奇転写因子、HAT1およびbZIP65の機能解析を試みた。 交付申請時のH23年度の研究計画は、両転写因子の1)過剰発現株の作出、2)ストレス応答性の解析、3)転写因子としての機能解析(細胞内局在性)であった。HAT1およびbZIP65の過剰発現株は円滑に作出することができた。過剰発現株において、両転写因子が高発現していることも確認された。また、ストレス応答性の解析から、HAT1は光酸化的ストレスおよびサリチル酸処理下において発現が抑制され、逆にbZIP65の発現はそれらに対して上昇することが明らかになった。さらに、GFP融合タンパク質を用いたイメージング解析により、HAT1およびbZIP65は核に局在することが明らかになった。このように、研究代表者はいずれの計画も滞りなく遂行し、両転写因子の機能を明らかにした。 また、H24年度の計画であった4)両転写因子のストレス耐性への重要性および5)下流遺伝子の同定も部分的に終えることができた。上記、過剰発現株を用いた解析により、両転写因子の破壊株は酸化的ストレスおよび病原菌処理に弱くなるのに対し、過剰発現株はそれらに対して強くなることが判明した。さらに、マイクロアレイ解析により、HAT1の下流遺伝子には植物ホルモンであるアブシジン酸の生合成遺伝子が含まれることが分かった。したがって、両転写因子はROSを介したストレス応答に不可欠であり、少なくともHAT1の機能にはアブシジン酸生合成調節が含まれることを明らかにした。
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