有用化学素材5-ケトグルコン酸(5KGA)の工業的生産技術へ展開するために、唯一の5KGA生産菌であるGluconobacter属酢酸菌のケトグルコン酸発酵過程の呼吸鎖電子伝達メカニズムを明らかにし、技術開発ための科学基盤を得ることが本研究課題の目的である。 これまでの研究によりケトグルコン酸発酵は、物質生産に寄与する細胞膜結合型脱水素酵素がエネルギー生成を行う末端ユビキノール酸化酵素と共役して機能する特徴的な酸化反応系であることを明らかにしてきた。今年度は、酢酸菌呼吸鎖変異株を用いて5KGA生産を評価し、以下にまとめるような成果を得た。 (1)呼吸鎖変異株および野生株を用いてケトグルコン酸発酵を行い、発酵中の基質および生成物の挙動を追跡して呼吸鎖変異の影響を調査した。シアン非感受性ユビキノール酸化酵素(CIO)の欠損株は微生物生育が遅延するにもかかわらず5KGAの培地への蓄積量が増加していた。 (2)休止菌体反応により野生株および変異株の5KGA生成活性を調査した。CIO欠損株では野生株の2倍ほど5KGA生産能が向上していることが明らかとなった。 (3)呼吸阻害剤(アザイド)を用いて5KGA生成と副生物(2-ケトグルコン酸)生成の阻害実験を行った。5KGA生成反応はアザイドに対して感受性を示したが、副生物生成は比較的耐性であった。 以上のことから、グルコン酸を呼吸基質とした場合の呼吸鎖において、5KGAを生成するキノプロテイン・グリセロール脱水素酵素からシアン感受性ユビキノール酸化酵素(シトクロムbo3型オキシダーゼ)への選択的な電子伝達反応が存在することが示唆された。
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