研究概要 |
我が国において,ノロウイルス(NV)食中毒事件は社会的な問題になっている.NV食中毒の原因食品は,主にカキなどの二枚貝であるが,近年は,青果物によるNV食中毒事件も報告されている.現在,糞便からのNV検出にはRT-PCR法が用いられているが,食品検査に応用した場合,食品マトリックスの影響を受けることや,食品のNV汚染濃度が少ないなどの理由により,十分な検出感度が達成されていない.このため,安全な食品を提供するためには,食品の前処理や試料中からのNV濃縮法の開発を含めた検査法の開発が急務である.本研究は,NV濃縮法について,NVを体内で濃縮すると考えられているカキの中腸線由来の培養細胞株の樹立を試み,さらにその細胞を用いたNV濃縮法を開発することを目的としている. 本年度はカキ中腸線の細胞培養の最適化を行った.試料として用いたマガキ(Crassostrea gigas)は,福岡県唐泊漁業組合の販売所にて購入した.購入したカキは,滅菌水で調製した人工海水(18℃)の水槽で24~36時間飼育後に中腸線を取り出した.取り出した中腸線は,LDF培地(50% D-MEM,35% F-12,15% L-15)にて洗浄後,同培地中で細かく刻んだ後に,抗生物質および種々の増殖因子を添加したLDF培地で初代培養を行った.その結果,通常の補助因子の他に,上皮成長因子(EGF)あるいは繊維芽細胞上食因子(FGF)を添加することにより,培養容器に接着し増殖することを確認した.なお,中腸線については,RT-PCR法により中腸線中にノロウイルスが存在しないことを確認したものを使用した. これまで,カキについては細胞培養の報告はなく,今後この細胞がNVに対しどのような相互作用を持つかなど,細胞の特性を明らかにすることが必要となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
哺乳類の細胞と違い,今回の研究で使用している細胞の培養温度は18℃である.研究代表者は以前サメの細胞培養を行った経験があり,18℃培養すると細胞の成長が増殖は遅く,十分な量の細胞が得られるまでに2~6週間かかることを予め予測しており,当初の計画通りに培養が進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,より多くの細胞が必要となってくるために,培養スケールを上げていく必要がある,また,マガキの季節か終了しているため,場合によってはイワガキの細胞培養も行う必要がある.
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