研究概要 |
植物のマイナス鎖RNAウイルスは遺伝子操作ができないため,増殖過程の分子機構には不明な点が多い.本研究は,イネ縞葉枯ウイルス(RSV)の粒子を再構築することにより,遺伝子操作実験系の確立を目指すものである.そこで,本年度はRSV粒子の構成成分であるヌクレオキャプシドタンパク質およびRNAポリメラーゼの合成を行った。 ヌクレオキャプシドタンパク質は大腸菌を用いて合成することができた.精製タンパク質標品はそのままではRNA結合能を示さなかったが,ヌクレアーゼ処理およびヌクレアーゼの不活化を行うとRSVゲノムRNAとの結合が観察された.このことから,大腸菌において発現させたヌクレオキャプシドタンパク質は大腸菌由来のRNAと結合した状態で精製されたと考えられた. 一方RNAポリメラーゼ遺伝子は大腸菌体内で不安定であり,かつ毒性を示すためクローニングが困難であったが,大腸菌株を選択することによりクローニングに成功した.RNAポリメラーゼはN.benthamiana葉におけるアグロインフィルトレーション法や小麦胚芽抽出液を用いた試験管内翻訳では発現が認められなかったが,タバコBY-2脱液胞化プロトプラスト抽出液を用いた試験管内翻訳によって発現させることができた.しかしながら,現在の所RNAポリメラーゼ活性は確認できていない.次年度は活性を有するRNAポリメラーゼを得るための発現・精製・反応条件を検討する予定である. 植物細胞内でのRSV粒子再構築も計画していたが,これはRNAポリメラーゼの発現が認められなかったため中断した.
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今後の研究の推進方策 |
現在RNAポリメラーゼ活性が検出できていない原因として,そもそも合成したタンパク質が正常な構造をとれていない可能性と,RNAポリメラーゼを活性化する未知の機構が存在する可能性が考えられる。これらの可能性を考慮しつつ,活性をもつRNAポリメラーゼを得るために,数多くの発現・精製・反応条件を検討することが最も有効な推進策と考える.
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