研究概要 |
本研究ではミヤコグサに対して正常な共生を行えない根粒菌変異株のうち、プリン合成遺伝子の変異株に着目し、その共生表現型を詳細に解析することで根粒菌のプリン代謝産物の共生への関与について調査した。前年度はDsRedで標識した変異株の感染表現型を確認したが、蛍光強度が非常に弱く詳細な解析が困難であったため、今年度は変異株をGUS標識し、感染表現型を解析した。野生型を接種したミヤコグサでは根の広い範囲で複数の感染が認められるのに対し、プリン合成変異株(Δmlr7447, Δmll0057, Δmlr3811)は、感染の頻度が野生株に比べ顕著に低下した。また根粒の発達段階における感染を調べたところ、変異株はいずれも根粒原基の表面に留まり、皮層への感染は見られなかった。変異株接種4週間後のある程度発達した根粒の内部には若干の感染が認められたが、野生型を接種した場合と比較すると、根粒のサイズや形、根粒内の菌密度が明らかに低下していた。これらの事から根粒菌のプリン合成は宿主への正常な感染に重要であると考えられる。 サイトカイニンはプリン塩基の一つであるアデニンの誘導体であり、根粒の器官形成に対しても重要である。プリン合成変異株について、アデニンおよびサイトカイニン(ベンジルアデニン, ゼアチン, カイネチン)をミヤコグサの成長に影響を与えない濃度で与え、感染表現型を確認したところ、50μMのアデニンおよび0.2μMのZeatin存在下において、根粒の発達が部分的に相補されたことから、根粒菌のプリン代謝物は根粒の発達にも関与している可能性が考えられる。しかし、サイトカイニン受容体の恒常的活性化型のミヤコグサ変異体(snf1)にプリン合成変異株を接種しても野生型の根粒菌を接種した場合に見られる様な窒素固定活性を示す根粒は着生しなかった事から、窒素固定の発現には別の要因が必要であると考えられる。
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