始原生殖細胞(PGC:Primordial germ cell)の移動を阻害することで、卵や精子が作られなくなることがいくつかの生物において報告されているが、海産養殖魚では未だにPGCの基本的な動態とそれに関わる分子機構についてほとんど調べられていない。そこで、本研究課題においては、海産養殖魚であるヒラメを用いてPGCの移動とそれに関わる分子機構の解析を行った。 前年度において、生殖細胞のマーカー遺伝子であるvasaがヒラメにおいても他種と同様に生殖細胞特異的に発現することが分かった。また、始原生殖細胞の移動に関わることが他種において知られているcxcr4(4型ケモカイン受容体)をヒラメにおいて単離した。そこで、cxcr4のmRNA及び、タンパク質の発現をPCR、in situ hybridization及び、western blotにより調べたところ、vasa mRNAと同じ生殖細胞において発現することが孵化直後のヒラメ仔魚において分かった。さらに、機能解析のためマイクロインジェクション法によるcxcr4mRNAのノックダウンを試みたが、海産魚の受精卵へのマイクロインジェクションは技術的に困難であった。そこで別の方法として、cxcr4と特異的に結合しその働きを拮抗的に阻害するケモカイン受容体阻害剤AMD3100をヒラメ受精卵へ投与することでPGCの移動阻害を試みた。その結果、AMD3100を投与した個体ではPGCマーカー遺伝子であるvasaのmRNAが消失した。この結果から、ヒラメにおいてPGCの移動にcxcr4が関与することが明らかとなった。始原生殖細胞の異動に関わるcxcr4が海産魚であるヒラメにおいても他種と同様に生殖細胞の維持に関わるという報告は無く、本研究により養殖魚の生殖機能の制御の可能性を示す結果が得られた。
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