多発性硬化症(MS)は神経難病のひとつであり,脳,脊髄,視神経髄鞘を標的としたTh1/Th17病態が主体の自己免疫疾患と考えられている.従来,本邦のMSは欧米と比較して脳病変を呈する割合が低いとされてきたが,近年は有病率の上昇とともに脳病変を呈する「古典的MS」の割合が上昇しており,いわゆる「MSの欧米化」傾向が顕著となっている.これまでMSにおける免疫動態は獲得免疫を主体に研究がなされてきたが,このようなMS臨床像変化の一因として自然免疫の影響が注目されはじめている.特に,Toll-like receptor(TLR)は自然免疫における重要な病原体認識分子であり,獲得免疫も誘導することから近年注目されている分子群である.TLR9はB細胞と形質細胞様樹状細胞(pDC)に発現し,CpG DNAがリガンドに同定されている.我々はMSのB細胞ではCpG DNA反応性IL-10産生が低下し,免疫調節性機能が低下していることを報告してきた.本研究ではpDCを介したI型interferon(IFN)産生経路に注目し,特にCpG DNA反応性IFN-αがMSのTh1/Th17病態へ与える影響を検討した. 研究の結果,MSではCpG DNA反応性IFN-α産生が低下しており,CpG DNA反応性IFN-α産生の低下はTh1/Th17偏倚を誘導すると考えられた.また,IFN-αやMSの再発・進行予防薬であるIFN-β1bを加えることでTh1/Th17偏倚が改善する可能性が示唆された. 「MSの欧米化」要因の一つに日本人の食生活変化が推測されているが,近年注目されている腸管免疫ではTLRに代表される自然免疫システムが重要な役割を果たしていると考えられている.本研究を踏まえ,将来的には腸管免疫が中枢神経免疫へ与える影響について探索し,プロバイオティクスによるMSの治療・予防に繋げたいと考えている.
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