生殖補助技術を伴う不妊治療の命題ともいえる妊娠率の向上には、正常な胚の作出が必要不可欠である。それには、受精前の配偶子における遺伝学的診断が最も効果的である。しかし雄性配偶子である精子は、完全に分化した半数体の細胞であるため、一度精子を遺伝学的診断に使用すれば他の用途(媒精)には使用できなくなる。そのため、精子の受精前遺伝学的診断法の確立は未だなされていない。そこで本研究では、生殖工学技術を効果的に利用し、今までにない全く新しい『精子の受精前遺伝学的診断法』を確立することを目的とした。 平成23年度は細胞融合を利用した精子の受精前遺伝学的診断法の確立を目指した。まず除核した成熟卵子に1個の精子を顕微注入することで半数体の雄性生殖胚を作製し、2細胞期まで発生させた。分割した割球の染色体分析を行い、90%以上の高い割合で、精子核DNAが複製され、均等に分割していることを確認した。またこれらの割球の一方を未受精卵子に細胞融合させ、未受精卵子内に存在する成熟促進因子を利用し早期染色体凝集(PCC)を誘導して染色体分析を行う方法を確立した。この方法により、細胞融合後約2時間で染色体標本の作製を完了できるようになった。さらにもう一方の割球も未受精卵子に細胞融合させ、PCCを誘導した後、塩化ストロンチウムで賦活化して発生を開始させた。そのうち54-64%の融合卵子が胚盤胞まで発育した。これらを受容雌に移植したところ、23%が胎仔まで正常に発生した。ロバートソン転座を持つモデルマウスを使用して、上述の精子の受精前遺伝学的診断法を行ったところ、確実に転座を検出でき、正常核型を持つ個体とロバートソン転座を持つ個体の産み分けを期待通りに行うことができた。以上のように、平成23年度では染色体レベルの精子の受精前遺伝学的診断法を確立することができた。
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