生殖補助技術を伴う不妊治療の命題ともいえる妊娠率の向上には、正常な胚の作出が必要不可欠である。それには受精前の配偶子における遺伝学的診断が最も効果的であり、平成23年度には早期染色体凝縮(PCC)による染色体分析を利用した精子の受精前遺伝学的診断法を確立した。 平成24年度では、PCCによる染色体分析の利便性を向上させることを目的に、薬剤(Calyculin A:Caly A)による迅速かつ簡便なPCC誘導法の確立を試みた。顕微授精による通常の受精卵、賦活化による単為発生卵、除核卵に顕微授精した雄性発生卵から作出された2細胞期胚を10-20 nM Caly Aで2時間培養したところ、通常の受精卵では、Caly Aの濃度に関わらず効率良くPCCを誘起できた(10 nM: 83%、20 nM: 100%)。一方で単為発生卵・雄性発生卵では、20 nM Caly AによるPCC誘導率はそれぞれ92%と100%であったが、10 nM Caly Aではそれぞれ44%と32%で十分なPCC誘導率を得ることができず、PCCを誘起できたとしても凝集が不十分なものが観察された。 また、精子の受精前遺伝学的診断法を改良することを目的に、成熟卵子を有核細胞片と無核細胞片に二等分した。有核細胞片は賦活化により、無核細胞片は顕微授精により、それぞれ単為発生卵・雄性発生卵を作出し、2細胞期まで発生させた。それぞれの割球を単離後、単為発生卵と雄性発生卵の割球を融合させ、2倍体の受精卵を構築したところ、24時間後には75.2%が分割し、50.3%が胚盤胞まで発育した。これらの胚は胎仔まで発育した。また、残された割球はCaly A誘導PCCにより染色体分析を行うことができた。 以上の結果から、予め染色体分析を行った1個ずつの精子と卵子から産仔を獲得する「配偶子の受精前遺伝学的診断法」の確立に成功した。
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