フィリピン共和国では、ロタウイルスによる下痢症対策は重要課題となっているが、その疫学調査はほとんど行われていなかった。本課題では、フィリピンの3地域の拠点病院において小児重症下痢症患者の動向を調査し、さらに分子疫学的手法を用いて、当地でのロタウイルス感染対策に必要な基盤的情報を得ることを目的として行われた。平成23年度には、首都圏マニラ、レイテ島、パラワン島の拠点病院の医師や病院長に対し研究の概略、必要性等について説明し、研究協力の同意を得るなど、研究体制の構築を行った。平成24年度から検体収集を開始し、順次解析を行っている。各病院でのロタウイルスの検出率は約28-67%であり、マニラではG1P[8]ロタウイルス、レイテ島ではG2P[4]ロタウイルスが主要遺伝子型として検出され、パラワン島ではそれらが約半数ずつ検出されたように、フィリピン各地域で異なる遺伝子型のロタウイルスが流行していた。また、パラワン島では学術的に興味深い遺伝子再集合をしたロタウイルスが蔓延していること、レイテ島では頻度は少ないが動物由来と考えられる珍しい遺伝子型をもつヒトロタウイルスの存在が認められ、現在詳細な解析を進めている。これらの結果は協力病院医師に定期的にフィードバックし、疫学情報や研究についてのディスカッションを行って連携を深めている。また、24年度途中からフィリピンでは、ロタウイルスワクチンの投与が一部地域で試験的に開始され、それに並行してナショナルサーベイランスが開始された。本課題で得られた情報を、フィリピンの感染症ナショナルリファレンスセンターである熱帯医学研究所と共有する他、一部地域において共同で研究を開始した。
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