研究概要 |
これまでの研究により,今回使用した抗癌作用物質Exiguolideが肺癌細胞株に対して,他癌腫細胞株より強力に作用することが分かっていたが,そのメカニズムは不明であった.臨床検体に由来する成人肺組織幹細胞にExiguolideを作用させると,その増殖抑制効果は50%増殖阻止濃度(GI50)にして200nMと,肺癌細胞株A549のGI50(600nM)より3倍程度高い効果を示した.そこでExiguolideは特に幹細胞に対する効果が高いと考え,その作用機序を明らかにすることで,肺癌幹細胞特異的増殖メカニズムの解明を試みた. このためにまず網羅的遺伝子発現解析(cDNAマイクロアレイ)を行った.得られた結果をソフトウエア(GeneSpring, Ingenuity Pathway Analysis)により解析すると,ExiguolideがMAPキナーゼカスケードおよびAktシグナルを制御する可能性が示唆された.このシグナル経路はどちらも幹細胞の増殖・分化に非常に重要なシグナルであることがわかっている.またExiguolideを作用させた6時間後・24時間後の変動遺伝子群をリストアップし,類似化合物を関連付けるプロジェクト「Connectivity Map(Science.2006)」へ入力すると,ExiguolideがプロテインキナーゼC (PKC)抑制剤との関連が高いことが示された. 以上の結果から,肺癌幹細胞の増殖には複数のシグナルが関わっていることが示唆され,またExiguolideがそれぞれのシグナルを同時に抑制する可能性が示された.
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