本研究は、炎症性サイトカインにより、転写因子AP-1、NF-κBや、クロマチンリモデリング因子SWI/SNF複合体等を介してその発現がエピジェネティカルに変動するmicroRNAに注目し、発がん過程やEMT(Epithelial Mesenchymal Transition:上皮間葉転換)において分子スイッチとして働く因子群を同定し、これらが形成する制御ネットワークを明らかにして新たな治療標的を同定することを目指す。長期的なTNFα刺激によってEMTを起こした乳腺上皮細胞MCF10AのRNAを用いてmicroRNAの発現変動をmicroarrayによって網羅的に解析したところ、miR-21の発現が4倍以上上昇しており、Real-time PCRによってもこの確認を行った。miR-21は、がん部で発現が上昇する代表的なmicroRNAであり、がんの進展に大きく寄与することが知られている。TNFα刺激によって活性化されたAP-1、NF-κB等が、miR-21遺伝子の転写を引き起こしたと考えられる。さらに、このときmiR-21の標的遺伝子の1つであるPDCD4タンパクの発現が低下することがWestern blottingによって明らかとなったが、PDCD4のmRNAの発現は低下していなかった。従って、発現が上昇したmiR-21によって、PDCD4の転写後抑制が起こっていると予想される。miR-21の発現上昇とPDCD4の発現低下がMCF10A細胞のEMTに関与する可能性が考えられる。
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