胃がん発症と深く関わっているcagA遺伝子陽性ピロリ菌は菌体内でCagAタンパク質を産生し、注射針様のIV型分泌機構を介して、胃上皮細胞内にCagAを直接注入する。胃上皮細胞に侵入したCagAはSrcファミリーキナーゼによりC末端側にあるEPIYAモチーフにおいてチロシンリン酸化を受ける。リン酸化されたCagAはがんタンパク質SHP2と結合し、胃上皮細胞の細胞増殖能を異常に亢進する。 これまでSHP2による細胞悪性化の分子機構は不明であったが、当研究室ではSHP2が核内においてWnt/β-cateninシグナルを制御すること、ならびにその脱制御が細胞悪性化に重要であることを明らかにした。 一方、CagAは宿主細胞内に侵入後、細胞膜内面においてその病原生物活性を発揮すると考えられており、CagAの核局在やその機能的意義を積極的に検証した研究報告はこれまでない。したがって、本研究ではCagAの細胞内局在を詳細に解析し、核内におけるCagAの存在ならびにその機能的意義について検討を行った。 胃上皮細胞内で全長約140 kDaのCagAは100 kDaのN末端側断片と40 kDaのC末端側断片に分断され、C末端側CagA断片はチロシンリン酸化されていることが示された。このC末端側CagA断片は全長CagAと同様、核にも局在しており、チロシンリン酸化依存的にSHP2と結合することが明らかとなった。さらに、CagA-SHP2複合体の細胞内局在を解析したところ、核においてもCagA-SHP2複合体が存在していることが示唆された。 以上の結果より、胃上皮細胞内では一部のCagAが核に局在し、チロシンリン酸化依存的にSHP2と複合体を形成していることが示唆されるが、その機能的意義については未だ不明である。今後は、CagAの核局在を含め、その機能的意義について検討が必要である。
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