妊娠中や生後数年の間に、手術に伴う麻酔を受けた児が、成長後に同年代の児に比較して、学習障害があるという報告がされている。申請者は、幼若マウスにセボフルラン麻酔を6時間行い、麻酔直後に脳にアポトーシス細胞を多数認め、さらに成長後の学習障害及び社会性の異常を見出した。セボフルランを含む麻酔薬の投与により、発達段階の中枢神経細胞で、アポトーシスを起こすなどの毒性があることが明らかとなっているが、予防・治療法はわかっていない。本研究は麻酔薬により引き起こされる中枢神経細胞保護法、治療薬の開発を目的とする。 当該年度は効果的な神経細胞保護法、治療薬の検討を目標としていた。これまで神経細胞の保護方法として低体温療法、また保護薬としてリチウム、エリスロポエチンなどが報告されているが、臨床応用できるほどの効果は認められていない。そこで、投与方法、投与時期などを工夫、さらには最近注目されている新規薬剤(オキシトシン製剤、バゾプレッシン製剤、NMDAレセプター拮抗薬)などを用いて、神経細胞保護作用をアポトーシス細胞数、残存神経細胞数から検討を行った。 各種薬剤の最適時期や最適経路、最適量の検討を行い、検討を行った。 麻酔薬曝露1時間前に微量のニコチン腹腔内投与を行うことにより、3%6時間セボフルランにより引き起こされるアポトーシス陽性細胞が有意に減少することが確認された。ニコチンはタバコ葉に含まれ、その毒性が広く認められているが、過去の報告によるとニコチンパッチ貼付により、注意欠陥・多動性障害の認知障害を改善したという報告もある。ニコチンの微量の単回投与により、げっ歯類において、3%セボフルラン6時間麻酔により起こる神経細胞死を抑制できる可能性があることが示唆された。
|