歯周病が新たな循環器疾患の危険因子になる可能性が高いため、その関連を明らかにすることが必要不可欠となっている。現在まで歯周病と循環器疾患の関連について疫学的には多く検討されてきたが、動物実験により因果関係が証明されたものは少数である。そこで本研究では、実験的モデルマウスを用い、歯周病原細菌の腹部大動脈瘤形成に与える影響とそのメカニズムを、特にTLRに着目して解析した。 方法としては、実験実施計画の通り、P. gingivalisにより感染させる実験群と、感染させない対照群に対し実験的に腹部大動脈瘤を誘導し、大動脈瘤の形成状態を評価した。マウスは野生型マウスのほか、Toll様受容体(TLR)-2ノックアウトマウス、TLR-4ノックアウトマウスを用い、それぞれのTLRが大動脈瘤形成の中で果たす役割を検討した。さらに大動脈瘤形成のメカニズムを検討するため、動脈組織において免疫組織学的にマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の局在を調査した。 結果として、TLR-2ノックアウトマウスにおいて、P. gingivalis感染後の大動脈瘤形成が抑制されることが示された。また、TLR-2ノックアウトマウスでは腹部大動脈におけるMMP-2およびMMP-9の産生が著しく減弱しており、これが大動脈瘤形成の抑制につながったと考えられた。一方、TLR-4ノックアウトマウスではP. gingivalis感染後の大動脈瘤形成が軽度に抑制されたものの統計学的に有意差はなかった。 以上のことからTLR-2による歯周病原細菌の認識が、全身の炎症を惹起することにより腹部大動脈におけるMMPの過剰発現を導き、最終的に腹部大動脈瘤に影響することが示唆された。
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