ナノ素材は食品添加物や医薬品としても利用されており、消化管内腔にも取り込まれることから大腸炎の誘導・増悪に関与する事が懸念されているが、消化管における炎症反応誘導作用およびその機構は未だ明らかでない。本研究では、二酸化ケイ素や二酸化チタン、酸化亜鉛などのナノ粒子による消化管の炎症反応の誘導機構を解明しリスク評価を行う。 各ナノ粒子は実験に用いる培地中で超音波破砕により分散し、動的光散乱法(DLS)により粒度分布の確認を行った。昨年度までの研究で、二酸化チタンのアナターゼ型ナノ粒子はルチル型に比べて、ヒトマクロファージ様細胞THP-1およびヒト大腸腺癌細胞Caco-2細胞の生存率の低下をより強く引き起こす事を認めている。本年度は、炎症反応の誘導過程で重要な働きをしているNLR pyrin domein containing 3(Nlrp3)インフラマソームの関与を検討するため、ナノ粒子曝露によるNlrp3の発現をウェスタンブロット法にて解析した。その結果、THP-1マクロファージ様細胞およびCaco-2細胞において、二酸化チタンのナノ粒子曝露によりNlrp3の発現が増加する傾向が認められた。さらにTHP-1マクロファージ様細胞において、どの二酸化チタンのナノ粒子についても活性酸素種および炎症性サイトカインIL-1βの産生を増加させることが認められた。 さらに本年度は、二酸化チタンと酸化亜鉛についてTHP-1マクロファージ様細胞における生存率への影響および酸化ストレス作用を比較した。同程度の粒子径でも酸化亜鉛の方が二酸化チタンよりマクロファージ様細胞の生存率の低下、ROSの産生量の増加を引き起こす事が認められた。本研究により、ナノ粒子は強い細胞毒性作用がなくても炎症反応を引き起こす可能性が示唆された。今後さらにナノ粒子の種類、サイズの違いによる影響について解析する予定である。
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