研究課題
研究代表者は、結核菌感染における免疫応答のバランス調節機構についての理解を深めるために、T細胞応答を調節する免疫抑制受容体PD-1に着目し、平成23年度の研究実施計画に基づいた実験を行い以下の成果を得た。1)PD-1を欠損したマウスの肺では、結核菌感染後にマクロファージの浸潤が野生型マウスと比較して2倍程度増加していた。2)PD-1欠損マウスの肺では、TNF-α、IL-6、IFN-γやIL-17A等の炎症サイトカインの産生が著しく増加していた。これらのサイトカインの主要な産生細胞はマクロファージとCD4陽性T細胞であることから、これらの細胞がPD.1欠損マウスの病態形成に関与している可能性が示唆された。3)マクロファージにおけるPD-1欠損の影響を明らかにするため、野生型およびPD-1欠損マウス由来の結核菌感染マクロファージの機能解析を行なったが、細胞内殺菌能やサイトカイン産生能に有意な差は認められなかった。一方、CD4陽性T細胞の機能解析から、PD-1欠損マウスの肺では抗原特異的CD4陽性T細胞数が顕著に増加していることが分かった。また、この抗原特異的T細胞は抗原刺激に対してIL-17Aを産生せず、IFN-γを多量に産生することが分かった。以上の結果より、結核菌を感染させたPD-1欠損マウスの病態形成には、CD4陽性T細胞の過剰な応答(抗原特異的T細胞数とIFN-γ産生能の増加)が関与している可能性が示唆された。結核菌感染におけるCD4陽性T細胞の役割については、感染防御免疫の司令塔としての有益な役割がよく知られている。しかしながら、本研究によって、PD-1というT細胞応答の制御分子を欠損した場合には、CD4陽性T細胞が感染病態の増悪をもたらすという新規の知見が明らかとなった。従って、本研究成果は、結核の病態解明のアプローチとして従来から用いられている病原体側(結核菌の病原性)の解析に加えて、宿主側(免疫応答)の解析の必要性を示唆する重要なものと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題に対する科学研究費補助金により、平成23年度の研究実施に必要な試薬などの物品を全て購入することができたため。また、平成23年度で得られた研究成果の発表についても、当該研究費の旅費により国内・国際学会において国内外の研究者に発信することができたため。
本研究課題の今後については、引き続き平成24年度の研究実施計画に基づいた実験を行い、結核菌感染における免疫抑制受容体PD-1の機能をより詳細に解析する予定である。
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