少子高齢化社会を迎えた我が国では成人造血器疾患に対する臍帯血移植の需要は増大の一途を辿っている。一方、臍帯血移植では細胞数が少ないことに起因する生着不全はしばしば致死的な転帰をとり、臨床上の大きな問題である。臍帯血移植技術の改良は医学的・社会的に解決しなければならない喫緊の課題である。 間葉系幹細胞は造血細胞移植時にドナー血液細胞の生着に寄与する細胞である。しかしながら臍帯血におけるその存在頻度は骨髄と比較すると少ない。我々は間葉系幹細胞を副甲状腺ホルモンで刺激することでその造血支持能力が増強することを明らかにした。CD34陽性細胞(造血幹細胞・造血前駆細胞)は間葉系幹細胞と共培養することでex vivoで増幅する。間葉系幹細胞をあらかじめ副甲状腺ホルモンで刺激したのちにCD34陽性細胞と共培養すると、CD34陽性細胞のex vivoでの増幅が増強した。副甲状腺ホルモンで刺激した間葉系幹細胞を免疫不全マウスに皮下移植すると、in vivoでの造血組織の誘導が増強した。副甲状腺ホルモンは間葉系幹細胞の多分化能を大きく喪失させることなく、細胞数を増加し、接着分子発現の変化をもたらした。以上の結果は、臍帯血における存在頻度が低い間葉系幹細胞に「薬物刺激」を加えその造血支持能力を増強することで、臍帯血移植時に問題となる生着不全が回避される可能性があることを示唆する研究成果と考えられる。
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