研究概要 |
HIV-1と標的細胞との膜融合反応を標的とした融合阻害剤enfuvirtide (T-20)は現在臨床において用いられているが、長期使用による耐性株の出現も報告されている。本研究課題ではT-20耐性株にも活性を示す次世代ペプチド性融合阻害剤であるSC34EKにより誘導されたgp41 cytoplasmic tail (CT)領域内の変異に着目し、薬剤感受性や感染性の変化を解析した。SC34EKを用いた耐性株誘導試験により、CT領域に5つのアミノ酸変異が同定された。これらの変異をHIV-1感染性クローンに導入し、ウイルスを作製して耐性度を解析した結果、5つのCT変異全てを組込んだウイルスは、T-20に約3倍の耐性を示した。また、CT変異に加えて,他のgp41変異(HR変異)を組込んだウイルスでは、HR変異単独のウイルスと比較してSC34EKに約3倍の耐性を示した。さらに、SC34EKにより誘導された全変異について、CT変異の有無による薬剤感受性の差を解析した結果、CT変異を有するウイルスでは、約8倍のT-20耐性が認められた。これらの結果は、CT変異が直接融合阻害剤の耐性に関与していることを示している。続いて、CT変異によるHIV-1感染性への影響を解析した結果、CT変異を組込んだウイルスでは、野生株の15%程度の感染性しか示さなかったため、CT変異がHIV-1エンベロープの機能不全を引き起こしていることが示唆された。以上の結果から、CT変異は膜融合反応を含めたHIV細胞侵入過程に影響を及ぼすことで、膜融合阻害剤の耐性に関与していることが推測された。
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