腹膜播種は卵巣癌の予後改善における大きな障壁である。本研究では腹膜播種を形成する微小環境細胞に焦点をあて、卵巣癌腹膜播種モデルマウスの腹水中で産生が増加していたSDF- 1に着目して、その産生細胞を同定し、腹膜播種に果たしている役割を解析することで、腹膜播種の成因の一端を解明し、従来の抗癌治療や抗血管新生治療とは異なった新規分子標的治療の開発につなげるべく研究を行っている。 すでに前年度にSDF-1がヒト卵巣癌細胞株の接着および浸潤に対して促進的に作用すること、卵巣癌腹膜播種モデルマウスより摘出した腫瘍切片の免疫染色にてSDF-1が腫瘍細胞及び線維芽細胞あるいは血管周皮細胞であることを同定している。 今年度は引き続き卵巣癌腹膜播種モデルマウスを用いてSDF-1中和抗体の腹膜播種抑制効果について検討した。ホタルルシフェラーゼを安定的に発現させたCXCR4発現卵巣癌細胞株を腹腔内移植し、移植後7日よりSDF—1中和抗体を腹腔内投与し、IVIS Imaging Systemを用いて腫瘍進展を評価した。SDF-1中和抗体投与マウスにおいて、腫瘍進展抑制が観察され生存期間が有為に延長した。また移植後5週においてマウスを解剖し腹腔内を観察したところ、腹膜上の卵巣癌細胞株生着点の著明な減少を認めた。またヒト卵巣癌検体におけるSDF-1およびCXCR4の発現と予後との相関を検討するため大阪府立成人病センターの手術検体の病理標本の一部を用いて作成した、Tissue Microarrayを抗SDF-1抗体および抗CXCR4抗体を用いて免疫組織染色をおこない、現在SDF-1およびCXCR4の発現と卵巣癌の予後について解析を進めている。
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