本研究においては,発症後高頻度に嚥下障害が発生するとされる脳血管障害(以下CVA)患者に対して,独自に開発した「舌圧センサシートシステム」を応用して舌圧測定を行い,脳血管障害後嚥下障害の客観的診断の可能性を探ることを目的として多角的な測定,分析を行った.CVA発症後は大部分の患者において嚥下障害が発生するとされているが,発症後2週間程度で症状が寛解する場合と長期に渡って残存する場合があり,CVA患者の生命予後やQOLの観点からも両者の経過を観察・鑑別することは重要であると考えられる.本研究では縦断的に発症1週間,2週間,4週間,3ヶ月目を目安に測定を行い,経時的な舌圧及び嚥下機能の指標の変化を追跡した. 結果として,発症後早期に嚥下障害が回復するパターンと長期に残存するパターンの鑑別に必要な要素を特定することができた.発症後1週間以内の段階では両者の鑑別は困難であるが、早期回復パターンでは,概ね2週目までに舌圧は口蓋前方部を中心に多くのチャンネルで回復し,また発現時間は短くピークは単峰性を示すのに対し,晩期残存パターンでは各チャンネルにおける舌圧最大値は小さいかもしくは接触が全くなく,発現時間は延長し多峰性のパターンをとるということである.この舌圧発現様相の経時的変化は嚥下障害の指標と相関しており,CVA後嚥下障害と舌圧測定を指標とする口腔期嚥下障害との間に一定の関連性が示唆された. 一方舌圧最大値が十分に出ているにも関わらず嚥下の遂行に障害のあるケースも見られ,この被験者においては口腔・咽頭運動の協調性の低下が疑われた.今後は咽頭内視鏡や他の咽頭運動測定システムを併用した同期計測の必要性が考えられた. 本研究の結果から,CVA後嚥下障害の予後を予知できる可能性が示唆され,CVA患者の治療計画の策定,創薬などに有益な情報が得られたと考えられる。
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