研究課題
本研究では、オクラホマ大学で行われたStreptococcus mutans UA159株に対するゲノムプロジェクトと当教室で行ったNN2025株に対するゲノムプロジェクトで得られた情報を統合し、S. mutansにおけるABC膜輸送体をコードすると推定される遺伝子のスクリーニングを行った。その結果、機能がそれぞれresponse regulator、ABC膜貫通タンパク、ATP結合タンパクと推定されるSMu0835、SMu0836、および3Mu0837遺伝子に着目し、実験を行った。まずはじめに、これらの遺伝子の欠失変異株の作製を行った。S. mutans MT8148株の染色体DNAを鋳型として、PCR法を行い、SMu0835遺伝子を増幅した。増幅したDNA断片をベクターに挿入して、プラスミドを作製し、SMu0835遺伝子の中央付近にエリスロマイシン耐性遺伝子を挿入したプラスミドを作製した。このプラスミドを1本鎖化し、MT8148株に相同組換えを起こすことにより、SMu0835遺伝子を欠失させた変異株を作製した。同様の方法を用いて、SMu0836およびSMu0837遺伝子を欠失させた変異株を作製した。これらの欠失変異株を用いて抗生物質感受性試験を行った結果、カナマイシンやテトラサイクリン、トリクロサンにおいて感受性が上昇していた。以上のことから、SMu0835、SMu0836、SMu0837遺伝子がコードするABC膜輸送体がこれらの遺伝子の欠失によりその機能を失い、菌体内に流入した抗生物質が排出できなくなった結果、抗生物質の感受性が上昇した可能性が示唆される。以上の研究成果は、S. mutansの病原性を考察する上で重要な示唆を与えるだけでなく、グラム陽性細菌の薬剤耐性におけるABC膜輸送タンパクの関与を明らかにしており、今後のこれらの研究分野に大きく寄与すると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
研究実施計画の内容を概ね完了しているため。
今後は、ターゲットとするABC膜結合タンパクについて、SMu0835、SMu0836 およびSMu0837遺伝子の抗生物質や他のストレスの存在下での発現の変化や、タンパクの機能の詳細を研究していく予定である。
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