研究概要 |
わが国の肺炎による死亡者は高齢者を中心として年間約10万人に達する.肺炎の治療には,従来より抗生物質療法が採られてきたが,近年,抗生物質耐性株の分離率が増加し問題となっている.そこで,本研究では新たな免疫賦活剤としてnon-cording RNA (ncRNA)に着目した.肺炎レンサ球菌を標的とし,菌由来ncRNAからヒトの免疫を亢進させる分子を検索することにより,宿主免疫賦活により抗生物質療法に代わる新規治療方法ならびに予防方法の確立を目指した.本研究から得られる結果は,肺炎球菌のみならず,種々の感染症を引き起こす数多くの病原性細菌の感染制御に幅広く応用できる可能性がある. はじめに,予備実験で得たレンサ球菌のncRNAクローン#221,#281および#301の感染防御効果についてin vitroならびにin vivoでの解析を進めた.real-timePCRを用いた予備実験において,ncRNAクローン#281導入細胞では,TGF-61の転写が減少した.TGF-B1はヒト細胞表層のフィプロネクチンの発現を正に制御する.多くの細菌はピト細胞表層のフィプロネクチンを介してヒト細胞に付着・侵入することから,ncRNAクローン#281導入細胞では細菌のヒト細胞付着が減少することが予測された.そこでncRNAクローン#281の導入細胞に対する肺炎球菌ならびにレンサ球菌の細胞付着能をin vitroレベルで解析した結果,#301クローンにおいて細胞付着能の亢進を認めた. 次に,ncRNAクローン導入によるTh17免疫応答の解析を行った.マウス脾臓からリンパ球画分を調整し,ncRNAクローン発現ベクターを導入し,IL-17およびMIP(=ヒトIL-8のマウスホモログで好中球遊走活性を有する)産生量をELISA法にて定量したところ,ncRNAクローン#221では,MIPの産生が増加した.(793字)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の進行は概ね計画通りである,研究期間の最終年度である次年度においては,研究成果の報告を行うべく,研究計画調書に記載した計画を遂行し,さらに論文雑誌への投稿および学会発表の準備を進めている.
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今後の研究の推進方策 |
次年度においては,マウス脾臓の全細胞画分にncRNAクローンを導入し,作製したクローン導入脾細胞にレンサ球菌を感染させることにより,好中球依存性の食食効率の変化を評価する.Th17免疫応答が上昇したncRNAクローン#221導入細胞の上清ではIL-17およびMIPの産生量が上昇し,菌の食食効率が高まると予測される.研究計画の変更あるいは研究を遂行する上での問題点は現時点で生じていない.
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