糖アルコールは,う蝕予防に効果があるとされる一方で,歯周病制御への応用に関する報告はほとんどない.我々はこれまでに,数種の糖アルコールが歯周病菌Porphyromonas gingivalis (Pg)とStreptococcus gordonii (Sg)で構成される混合バイオフィルムの形成を顕著に抑制すること,またそのマイクロコロニー形成が各糖アルコールで異なる形態を示すことを確認している.本研究では,プロテオーム解析およびメタボローム解析の情報を統合的に解析し,歯周病原性バイオフィルム構成細菌のタンパク質および代謝産物の動態を網羅的に探索することにより,バイオフィルム形成機構および糖アルコールによるバイオフィルム形成阻害機構の解明を目指す. 平成24年度の研究においては,糖アルコール存在/非存在下のSgあるいはPgを試料としたメタボローム解析の結果の統合的解析を実施し,エリスリトールやソルビトールはSgやPgの核酸合成系や解糖系を含む様々な代謝経路に影響を及ぼすことにより,各菌の増殖を抑制している可能性を明らかにした.また,近年新たに歯周疾患との関連が報告されてきている菌のひとつであるFilifactor alocis(Fa)に着目し,糖アルコール存在/非存在下のFaを試料としたメタボローム解析を実施した結果,エリスリトールやソルビトールはFaに対してSgやPgと同様に,核酸合成系抑制などの効果を示した.さらに,ソルビトール存在下において,Faは歯周組織への為害作用が報告されている短鎖脂肪酸の産生量を有意に増加させた.このことより,ソルビトールはFaの歯周病病原性を増強させる可能性が示された.
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