本研究の目的は、高血圧モデルであるSHRSPにおけるストレス性高血圧の責任遺伝子を同定することである。これまでに我々は、SHRSPと正常血圧を示すWKYの間で作成した種々のコンジェニックラットを用いた遺伝学的解析により、交感神経活性の亢進による血圧上昇に関与する遺伝子が、第1染色体に存在することを明らかにした。本研究においては、まず、ストレス性高血圧の責任遺伝子が含まれると推測される第1染色体の候補領域を、最小で約1.2Mbpの範囲まで絞り込んだ。この領域に含まれる遺伝子の総数は44個であり、このうち28個は嗅覚受容体遺伝子であった。残り16個の遺伝子のうち、遺伝子シンボルにLOCもしくはRGDを含むものを除外すると、残りは9個であり、これらを解析の優先的対象とした。次に、交感神経活性と血圧の制御中枢である吻側延髄腹外側野(RVLM)を含む脳幹部位を採取し、RNAとタンパク質を抽出した。定量的RT-PCRにより、候補領域に含まれる上記9個の遺伝子について、遺伝子発現量の比較を行った。2系統間で発現量に有意差を示す遺伝子は存在しなかった。しかし、2系統のwhole genome sequencingによって得られた塩基配列情報に基づき、小胞体膜に局在するカルシウムセンサータンパク質をコードするStim1遺伝子に、不完全長のタンパク質を生じるナンセンス変異が存在することがわかった。ウェスタンブロット法により、SHRSPの脳幹において、野生型よりも短い変異型Stim1が発現していることが確認された。WKY、SHR、SHRSPの亜系を含む計19系統のラットについてDNAシーケンシングを行い、変異型Stim1を生じる変異は、SHRSP系統に特異的に見られるSNPであることが明らかになった。
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