カルシニューリンインヒビターの開発により、移植医療は飛躍的に進歩したが、数多くの副作用が報告されている。その原因の一つに、カルシニューリンがコントロールする経路の多様性があり、免疫機構に関係あるカルシニューリン-NFAT経路のみをブロックする薬剤を開発すれば、より副作用の少ない免疫抑制剤としての使用が可能となる。申請者は以前に、NFAT抑制ペプチドに蛋白導入ドメインの一つであるポリアルギニンを付加したペプチド(11R-VIVIT)を合成し、そのペプチドが、カルシニューリン-NFAT経路のみをブロックし、糖尿病の副作用を持たないことを証明した(Nature Medicineに報告)。このペプチドは研究試薬として広く研究者に利用されているが、有効濃度の5-50倍の濃度を使用すると細胞毒性が認められるため臨床使用は困難である。今回の研究目的は、11R-VIVITと同様にカルシニューリン-NFAT経路のみをブロックし、かつ11R-VIVITよりも細胞毒性の低い薬剤を開発することである。 平成23年度は新規免疫抑制剤の開発およびin vitroでの効果判定を行った。現在まで同定されている内因性カルシニューリン抑制物質のうちのひとつであるRCAN蛋白(protein family of regulators of calcineurin)のアミノ酸配列の一部をペプチドとし、蛋白導入ドメインと融合させたRCAN-11Rペプチドを今回の研究で用いた。RCAN-11RはNFATの核内移行を抑制しIL-2の分泌を抑制した。一方で、RCAN-11Rペプチドがカルシニューリン-NFAT経路以外の経路としてNF-kappaBの核内移行の確認を行ったが、NF-kappaBの核内移行は抑制しなかった。またRCAN-11R処理により、リンパ球混合試験(mixed lymphocyte cultures ; MLCs)による細胞増殖抑制効果を確認した。 in vitroでの細胞毒性検査を施行したが、有効濃度の100倍未満の濃度では細胞毒性は観察されなかった。
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