研究概要 |
マイクロRNA(miRNA)は複数の蛋白発現を抑制し、癌化に関与していることが明らかになりつつある。我々の検討で、中皮腫では特にmiRNA-34b/c(miR-34b/c)の発現が低下していることが判明し、miR-34b/cが中皮腫の癌化に重要なmiRNAであることが示唆された。(Kubo F, Ueno T.et al.Clin Can Res.2011)中皮腫に対する新しい治療・予防法を開発するためには、中皮腫細胞モデルの作成は重要な課題である。本研究は、正常中皮細胞においてmiR-34s(miR-34a,miR-34b,miR-34c)の発現を強制的に抑制することで、中皮腫細胞モデルを作成することを目的とした。既存の正常中皮細胞株(LP-9)と正常胸水より採取した中皮細胞を初代培養した3細胞株を用いた。正常中皮細胞株にmiR-34sのアンチセンスオリゴ(miR-34s inhibitor)を導入し、対象群にはControlオリゴを導入した。miR-34s inhibitor導入群(miR-34s群)と対象群の、細胞増殖(MTS assay法、Colony formation assay法)、遊走・浸潤能(Boyden chamber assay法)、タンパクの発現(Western blotting法)の変化を、比較し検討した。miR-34s inhibitorの導入により、miR-34a,b,cの発現は70-80%抑制されていることを確認した。増殖能は、miR-34s群は対象群と比較し、MTS assayで、1.2-1.6倍の増殖能の増加を認め、Colony formation assayでは、2-2.5倍の増殖能を認めた。また、細胞の増殖能の反映するKi-67の免染では、miR-34s群(miR-34a群とmiR-34c群)で2-4倍の増殖を認めた。遊走、浸潤能は、LP-9では、miR-34s群で遊走、浸潤能共に1.5-2倍の促進を認めた。タンパクの発現の変化は、miR-34s群で、癌細胞の増殖や転移に関与するとされるMETの発現の増加やリン酸化の亢進を認め、抗アポトーシスタンパクであるbcl-2の増加を認めた。今回の検討で解明したことは、正常中皮細胞において、miR-34sの発現の低下は、早期の発癌現象の一因であることがわかった。また、正常中皮細胞にアンチセンス発現プラスミドベクターを導入し、細胞株の樹立を図ったが、悪性腫瘍としての傾向性はみられるものの、腫瘍形成までは至らず、樹立はできなかった。
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