申請者らの過去の研究によって、ヒト胚性幹細胞の特異的マーカーであるstage-specific embryonic antigen (SSEA)-4は、ヒト歯根膜幹細胞および歯髄幹細胞の同定・分離マーカーとしても有用であることが解明されている。しかし、ヒト歯根膜幹細胞におけるSSEA-4の機能はまだ解明されていない。従って、本研究では、ヒト歯根膜細胞におけるSSEA-4を含む糖脂質合成が幹細胞の維持・分化に関わっているかについて検討を行った。本年度の当該研究では、serine palmitoyltransferaseの阻害剤であるISP-1と、glucosylceramide synthetaseの阻害剤であるD-PDMPを用いて、ヒト歯根膜幹細胞の脂肪細胞分化および骨芽細胞分化に違いが生じるかについて検討を行った。その結果、ISP-1およびD-PDMP添加によって、脂肪細胞分化および骨芽細胞分化が有意に変化することが示された。このことから、in vitroにおいて、SSEA-4を含む糖脂質合成がヒト歯根膜幹細胞の維持・分化に関わっていることが示唆された。また、ISP-1とD-PDMPを用いて、ヒト歯根膜幹細胞のin vivoにおける骨芽細胞分化に違いが生じるかについても検討を行った。しかし、in vitroの結果と異なり、in vivoではISP-1およびD-PDMP添加による骨芽細胞分化の有意な変化は認められなかった。これは、In vivoでは細胞をマウスに移植した後は阻害剤を追加で添加できないため、骨形成の間に十分な阻害剤の濃度が維持されず、有意な変化が認められなかったものと考えられた。
|