研究の目的:本研究は,超高齢者に多く見られる口腔細菌感染による重篤な全身疾患,とりわけ肺炎の発症予知診断システムを細菌学・感染症学的な見地から構築することを目指している。 研究の方法:岡山大学病院歯周科と医科歯科連携を行っている一般市中病院 臨床研究倫理審査委員会に,本研究施行に対する承認を得たうえで,研究を進めた。同一般市中病院において,肺炎のため入院した患者を対象とし,個々の患者あるいは患者の家族に対して研究内容を説明し,同意を得た。肺炎罹患患者に対して,肺炎発症時における全身臨床検査項目について調べた。さらに,肺炎発症時において口腔内診査を行った。蓄積した患者データから,肺炎と歯周病との関連性について統計学的に検討した。 研究成果:同一般市中病院において,2012年5月1日~2012年11月30日の期間中に,口腔内感染巣精査を目的に内科から歯科へ紹介された肺炎疑いの患者は,40名(男性:16名,女性:24名,平均年齢:85.4±6.4歳)だった。その後,肺炎と診断された患者は31名だった。そのうち,A-Drop(日本呼吸器学会重症度分類)による中等症患者が87%(27名),重症患者が13%(4名)であった。また,誤嚥性肺炎患者は,71%(22名)だった。一方,患者40名に対して口腔内診査を行ったところ,無歯顎者は16名であった。また,肺炎患者の方が非肺炎患者に比べて,有歯顎者が有意に多かった。肺炎患者に対して,口腔内の一般細菌検査を行ったところ,①Candida albicans②α-Streptococcus spp.③MRSAの順に検出率が高かった。一方,非肺炎患者の口腔内からは,α-Streptococcus spp.のみのが検出された。以上より,今後,口腔内の細菌学的な肺炎の発症予知診断システムの確立は,肺炎の早期スクリーニングを可能にする可能性がある。
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