性・年齢階級別にみた肝癌死亡率の経年変化を年齢・時代・コホート(Age-Period-Cohort)モデルにより解析し、年齢要因(加齢によるリスク)、時代要因(年齢に関わらずその時代の構成員全員が受けたリスク)、出生コホート要因(生まれ育った環境などを反映し、同級生が共通して受けたリスク)を推定した。その結果、このモデルの再現性は高く、決定係数R2は0.99以上であった。男女とも加齢により肝癌死亡リスクが高まる傾向がみられた。時代の推移によるリスクはあまり変化しなかったが、男性では1995年、女性は2000年を境に肝癌死亡リスクの減少傾向がみられた。出生コホート要因について、男性では1931~35年出生群の肝癌死亡リスクが大きく、以降ほぼ単調に減少していた。女性では1935年以前の出生群では肝癌死亡リスクが高い水準にあったが、以降の出生群では1971~75年出生群を除きほぼ単調に肝癌死亡リスクが減少していた。 APCモデルの出生コホート効果の代わりに、1995~2000年の初回献血者集団から推定した、出生年別肝炎ウイルスキャリア率を取り入れたモデル(APCaモデル)で解析を行った結果、加齢とともに肝癌死亡リスクが増加していた。時代による要因はAPCモデルと少し異なった挙動を示した。肝炎ウイルスキャリア率による要因は男女とも1931年以降減少していた。 また、1990年までの肝癌死亡率のデータに基づきAPCモデルにより推定した年齢、時代、出生コホートの各要因を用いて、2010年時点の推定肝癌死亡率を算出し、2010年時点の実肝癌死亡率と比較した。男性では実肝癌死亡率が推定死亡率よりもよりも大きく減少していた。この差分は1989年以後HCV関連抗体の開発などによる診断が進むと同時に1990年以降のインターフェロン治療等により、肝癌死亡が抑制されたことを示唆していると考えられた。
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