研究課題/領域番号 |
23890147
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
柴田 俊生 九州大学, 大学院・理学研究院, 学術研究員 (00614257)
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キーワード | トランスグルタミナーゼ / 腸管免疫 / キイロショウジョウバエ / IMD経路 / RNAi |
研究概要 |
トランスグルタミナーゼ(TGase)は、タンパク質め架橋反応を触媒し、皮膚の角質化や血液凝固、またアポトーシスなどを引き起こす生体に必須の酵素である。ごく最近、キイロショウジョウバエのTGaseが腸管め免疫経路を制御していることを見いだした。腸管免疫制御の分子機構は未解決の問題である。そこで、本研究では腸管免疫におけるTGaseの機能を調べた。 まず、腸管免疫におけるTGaseの機能を調べるために、TGaseをRNAiした系統と、コントロール系統の、腸管における各種免疫関連因子の産生量をリアルタイムPCR法により定量化した。その結果、主要な免疫経路であるIMD経路の抗菌ペプチド群が、RNAi系統において著しく亢進していることが判明した。一方で、無菌状態で飼育したRNAi系統では、有意な抗菌ペプチドの産生が認められなかった。また、腸管特異的にTGaseをRNAiした系統では、コントロール系統と比較して高頻度で細胞死が誘発されており、生存率も減少していた。興味深いことに、RNAi系統を無菌状態にすると、細胞死は認められず、生存率も大幅に回復した。さらに、TGaseのRNAi系統の腸管抽出物を、無菌化した野生型系統に経口投与すると、TGaseをRNAiしたときと同様に寿命が大幅に短くなった。以上より、TGaseは腸管免疫を負に制御し、腸内細菌叢の維持を行っている可能性が高い。そこで、TGaseの基質タンパク質を同定するために、TGaseの合成基質を用いた実験を行った。TGaseの合成基質を成虫に経口投与すると、この基質がIMD経路の抗菌ペプチド発現に関与する転写因子に、TGase依存的に敢り込まれることが判明した。また、TGaseのRNAi系統では、この転写因子が高頻度で核内に移行していた。TGaseによる転写因子の架橋様式を確かめるため、TGaseと転写因子の両タンパク質を昆虫細胞により共発現させたところ、この転写因子はTGaseにより高度に架橋されることが明らかとなった。以上のことから、TGaseは転写因子を架橋して不活性化させ、腸管免疫の恒常性維持に寄与していることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予定していた計画のうち、TGaseが関与する腸管免疫のシグナル伝達経路の特定と、その経路における基質タンパク質の同定が達成された。さらに免疫経路の抑制方法の概要も判明し、平成24年度分の計画もほぼ達成された。現在、これらの成果をまとめた論文を投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度以降は、TGase基質の架橋に関わると推定されるアミノ酸残基に変異を加えた各種組換え体を作製し、架橋反応に関わるアミノ酸残基の特定を行う予定である。また、TGaseをRNAiした系統とコントロール系統の、生後各日数における腸内細菌種の同定を進めている。TdaseをRNAiした系統に特有の細菌種を、コントロール系統に感染させることにより、生存率や細菌に対する応答などを評価して、短命の原因細菌を特定したい。さらに、TGaseがIMD経路以外の免疫系へ関与している可能性が出てきたので、その免疫系および基質を、RNAiや生化学的手法を用いて解明したい。
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