中枢性疾患発症時に、ミクログリア細胞を活性化状態へと移行させる遺伝子制御メカニズムの解明を目的として、転写因子interferon regulatory factor (IRF)に着目し、特に神経障害性疼痛発症に寄与する活性化ミクログリア内で働く転写因子ネットワークの解明を目指した。神経障害性疼痛モデル動物の脊髄ミクログリアにおいて、IRFファミリーの一つであるIRF5の発現増加が観察され、その発現増加はIRF8欠損マウスでは完全に消失した。一方、レンチウィルスベクターを用いて、ミクログリア細胞にIRF8を強制発現させると、IRF5が発現誘導され、またクロマチン免疫沈降法やルシフェラーゼアッセイ法等の解析の結果、IRF8がIRF5の発現を直接制御していることが明らかになった。次に、脊髄ミクログリアに発現するIRF5が疼痛発症に寄与するか否か検討するため、IRF5のsiRNAを作製し、神経障害性疼痛モデル動物の脊髄腔内に投与した。その結果、脊髄IRF5の発現抑制に伴い、神経障害に起因する疼痛行動が顕著に抑制されたことから、ミクログリアに発現するIRF5が疼痛発症に寄与していると考えられた。そこで、培養ミクログリア細胞を用いて、IRF5の役割について検討した。その結果、疼痛発症に重要な役割を果たしているP2X4受容体の発現増加にIRF5が関与している可能性が示唆された。以上の結果から、末梢神経損傷後、脊髄ミクログリアで発現増加したIRF8-IRF5軸がP2X4受容体などの疼痛関連因子の発現誘導を介してミクログリアを活性化状態へと移行させ、神経障害性疼痛発症に重要な役割を果たしていると考えられる。本研究により、種々の中枢性疾患発症に寄与していることが明らかになっているミクログリアの活性化状態への移行にIRF転写因子ネットワークが重要な役割を果たしていることが初めて特定された。
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