平成23年度は、アポモルフィン(APO)の抗アルツハイマー病(AD)作用の分子機序を解明するために、APO処理により発現レベルが変動する遺伝子群をDNAマイクロアレイにより解析した。その結果、APO処理はインスリンシグナリングを改善させる作用が示唆された。平成24年度は、ADモデルの3xTg-ADマウスに対するAPO注射治療が脳のインスリン抵抗性を改善するかどうかを検討した。インスリン抵抗性が上昇するとリン酸化インスリン受容体基質-1 (IRS-1)が増加する。ウェスタンブロット解析では、3xTg-ADマウス脳でリン酸化IRS-1が増加していたが、APO治療によりその蛋白レベルが低下し、インスリン抵抗性の改善が示唆された。また、3xTg-ADマウスのAPO治療において、細胞内のアミロイドβ蛋白(Aβ)分解酵素であるインスリン分解酵素(IDE)の活性上昇が示された。従って、APO治療はADマウスの神経細胞におけるインスリン抵抗性を改善し、それによりIDE活性が上昇し、神経細胞内Aβ分解を促進すると考えられ、ADの記憶力回復につながる可能性がin vivoで示された。 一方、ADの神経細胞内に蓄積するAβ42の構造的な解析をするために、通常のAβ、毒性ターン構造を有するAβ、高分子凝集Aβオリゴマーに対する特異抗体類を用いて、家族性AD変異PS1遺伝子をトランスフェクトした培養細胞、3xTg-ADマウス脳、AD患者剖検脳を解析した。その結果、毒性ターン構造Aβ42が明確な認知障害を生じるよりも早期に神経細胞内に蓄積し、それが小胞体(ER)ストレスを惹起している可能性を見出した。従って、早期より神経細胞内に蓄積する毒性ターンAβ42の分解を促進することはADの重要な根本的治療戦略であり、APO以外にもインスリン抵抗性低下とIDE活性上昇を促進する薬剤の探索が必要と考えられた。
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