タンパク質性薬物にポリエチレングリコール (PEG) を修飾すると酵素分解への耐性や血中滞留性が増大するものの、標的分子への結合が大きく低下する結果、その活性は損なわれる。そこで本研究では、酵素活性の低下の少ない PEG 化技術の開発を目指し、シクロデキストリン (CyD) 包接特性を利用した新規 PEG 化 (超分子 PEG 化) 技術の構築を行った。具体的には、CyD/タンパク質性薬物結合体を調製し、CyD と安定な複合体を形成するアダマンタンを修飾したPEG を包接させることにより超分子 PEG 化タンパク質性薬物の調製を行った。なお、モデルタンパク質性薬物には血中滞留性の向上が望まれるインスリンを用いた。 インスリンとの反応性に優れるグルクロニルグルコシル-β-CyD (GUG-β-CyD) を選択し、縮合反応させることにより、GUG-β-CyD/インスリン結合体を調製した。各種スペクトル解析の結果より、結合体中の GUG-β-CyD は包接能を有していること、また、結合体中のインスリンは高次構造を保持していることが示唆された。さらに、結合体の酵素および熱に対する安定性は、インスリン単独と比べて優れることが示唆された。しかし、GUG-β-CyD/インスリン結合体の血糖降下作用は、インスリン単独と比べて減弱することが示唆された。 そこで、アダマンタンとインスリンの結合体を調製し、その生理活性を評価したところ、インスリン単独と同等の血糖降下作用を示した。次に、PEG と β-CyD の結合体を混合し、超分子 PEG 化インスリンを調製したところ、アダマンタン/インスリン結合体に比べて、活性が低下することなく血糖降下作用が持続する傾向を示した。 以上の結果より、超分子 PEG 化により活性を損なうことなくタンパク質性薬物の血中滞留性を増大できる可能性が示唆された。
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