本研究の目的は、むせ(誤嚥の兆候)と嚥下時の呼吸パターン(誤嚥の危険因子)との関係に着目し、誤嚥防止の観点から、むせがある無歯顎者を抽出して、嚥下時呼吸パターンについて義歯装着の有無との関係で計測分析しバイオフィードバックによる呼吸パターンの改善がむせの消失に効果があるか検討することにある。したがって、バイオフィードバック訓練を確立するために、まず無歯顎者を対象に義歯装着時・非装着時の計測を行った。その計測項目は、嚥下時呼吸(呼息、吸息、無呼吸の判別)、嚥下の指標(喉頭拳上)、嚥下関連筋活動(口輪筋)とした。 結果は以下のとおりである。義歯装着時の呼吸パターンは,呼息-嚥下-呼息81 %,吸息-嚥下-呼息15 %,呼息-嚥下-吸息は4 %であり,嚥下後に呼息で呼吸が再開する呼吸パターン(96%)がほとんどであった.一方,義歯非装着時の呼吸パターンは,装着時と比べ,呼息-嚥下-呼息70 %が少なく,装着時には発現しなかった吸息-嚥下-吸息4 %がみられ,嚥下後の呼吸が吸息で再開する呼吸パターン(18%)が有意に多かった。また、むせを自覚している被験者は、嚥下後の呼吸が吸息で再開する呼吸パターンが多かった。嚥下時無呼吸開始と喉頭拳上との時間関係は,義歯装着の有無による違いはなかったが,嚥下時無呼吸前後の呼吸相が同じパターン(呼息-嚥下-呼息,吸息-嚥下-吸息)と異なるパターン(吸息-嚥下-呼息,呼息-嚥下-吸息)とでは有意差を認めた.口輪筋活動は呼吸パターンによる有意差はなかった。 むせを自覚する者に嚥下後の呼吸が吸息で再開する呼吸パターンが多かったことから、訓練によってむせにくい呼吸パターンの獲得が必要と考えられる。当初、口輪筋を標的の一つと考えていたが、呼吸パターンとの関連性がなかったため、呼吸機能との関連を今後検討していく予定であり、呼吸機能の計測を遂行中である。
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