研究概要 |
大腸癌では,90 % 以上の症例で Wnt/β-カテニンシグナルが亢進していることが明らかにされている.しかし,残念ながら臨床応用されているWntシグナルをターゲットとした分子標的薬は存在しない.その理由の一つとして Wnt シグナルが正常幹細胞のホメオスターシスにも重要な役割を担っていることが挙げられる.申請者らは,β-カテニンに結合し,その転写活性を正に制御する BCL9 が大腸癌の細胞増殖,転移・浸潤,腫瘍血管新生に重要であることを明らかにしている (Mani M, Takada K, et al., Cancer Res, 2009).BCL9 は正常細胞に発現していないことから癌治療の標的分子として理想的である.BCL9 は,homology domain 2 (HD2) が形成する α-Helix を介して β-カテニンに結合する.申請者らは,HD2 の構造を模倣した Stabilized Alpha-Helix of BCL9 peptide (SAH-BCL9) を設計・合成し,SAH-BCL9 が Wnt/β-カテニン転写活性を特異的かつ効果的に阻害し,大腸癌細胞株の増殖を抑制するのみならず、大腸癌の浸潤・転移、血管新生を抑制することを明らかにした.SAH-BCL9 は BCL9/Wnt シグナルが活性化している大腸癌において新たな分子標的薬として有用である可能性が示唆された.
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